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不動産業界の手数料がバカ高いワケ

2回目の更新:令和2年11月28日

平成26年の宅建業法の改正により、宅地建物取引主任者のさらなる資質の向上を図るため、平成27年4月1日から、宅建主任ないし宅建主任者試験が、それぞれ宅建士ないし宅建士試験に名称変更されましたので、この記事は上記変更前のものであることをご承知おきください。

1回目の更新:平成20年11月26日

以下は,転載許可を頂いた「週刊文春」の記事です。

「週刊文春」1998年7月30日号に,生活経済アナリスト水澤 潤氏が寄せた記事です。
細かい数字は変わっていますが,大筋で,今でも十分妥当する情報です。

私の申し入れに対し,わざわざ電話まで頂戴し快諾して下さった週刊文春の編集長をはじめ編集部の方々に深く感謝申し上げます。


不動産業界の手数料がバカ高いワケ

ここ数年,人気が急落した資格試験に,宅建主任があります。とはいえ,不況の世の中ですから,手に職をつけるべく,一所懸命勉強している方も多いと思います。

今月末が試験の応募の締切りで,勉強に水を差すつもりはありませんが「利権にいちばん近い資格」の現実の姿がどんな事態になっているのかぐらいは,知っておいても損しないはずです。

宅建主任の試験は,合格率が昨年度も14.1%だったように,難しい試験なのですが,その裏側で,昨年,信じがたい抜け穴が作られたことは,あまり知られていません。

普通の受験者が2時間で50問に挑むところ,ある種の人たちは最初から5問が免除され,正解したものとしてゲタを履かせてもらえる……という制度なのです。

不動産業界に3年以上従業員として勤め,なおかつ4万5千円払って講習を受けた人には,特定の5問を正解したものとして扱いましょうというわけです。

このゲタがどれほど大きかったかについて,宅建試験の予備校である東京リーガルマインドの水本氏によれば,「この5問は,かなり難易度の高い問題で,ちょっとやそっと勉強して点を取れるような問題ではなかった」ということです。つまり,ゲタを履かせてもらえたなら,とても有利だったわけです。

もちろん,試験を実施する側にも言い分はあります。

業界外の人間ばかりが合格して,肝心の不動産業界の人間が,ちっとも試験に合格できず,慢性的に人手不足で困っているからというのがその言い分です。

一般の人が,こんな言いわけを聞いたなら,それは業界の人間のレベルに根本的な問題があるからではないかと思うはずですよね。

そして,今回の試験で,いわば4万5千円払って5点のゲタを購入した人たちの合格率が19.7%で,一般受験者よりやや良かったものの,大差はなかったという事実を見ると,ますます疑問は膨らみますよね。……この人たちに,大切な財産を任せても良いのだろうか,と。

不動産業界の掟は,なんだか世間の常識から,かなりかけ離れているようなのです。

この業界に入ろうとする人たちを待ち受ける,カネ,カネ,カネの世界を見てみましょう。

昭和63年,それまで各都道府県が管轄していた試験の実施を一本化したのが,財団法人不動産適正取引推進機構という団体でした。

受験料は当時5千円,平成5年からは7千円に値上がりしています。

バブル最盛期の受験申込者は42万人を越えましたから,それだけで21億円。過去10年間で受験者数が最小となった昨年度ですら,試験1回ごとに16億円以上の受験料が転がり込んで来ていた計算になるのです。

ところで,試験に無事,合格しても,即,宅建主任になれるわけではありません。

不動産業界に2年以上在籍していた人以外は,今度は財団法人不動産流通近代化センター(近代化センター)が主催する実務講習を受けなければならないのです。

この制度も,昭和63年に創設されたのですが,受講料がお一人様5万円。

さきほどの「5問免除のゲタ講習。受講料4万5千円也」を実施しているのも,やはりこの近代化センターです。


宅建試験の受験料で,ひと財産!?

人気のバブルが剥げ落ちた宅建主任者試験,受験者数も近年は減少傾向にある。
しかし受験者数が減少しても,受験料を値上げしたり,半強制的に講習を受講せざるを得ないように制度を変えたりして,試験に関連する2つの団体の懐には,25億円を越える金額が,毎年コンスタントに転がり込んで来るのだ。


宅建試験、受験料総額の推移

(宅建主任者試験の申込者数は,財団法人不動産適正取引推進機構のデータによる。受験料総額は,受験料と,受験にまつわる半強制的な各種の講習の受講料の合計金額として,同機構及び財団法人不動産流通近代化センターの受験・受講者数のデータを元に筆者算出)

さて,無事に実務講習を終了してもこれで宅建主任になれるわけではありません。

こんどは各都道府県の宅建業協会が主催する法定講習を受けなければならないのです。

この受講料が1万5千円。

1回受講すればそれでおしまいではなく,5年ごとに主任者証を更新するたびに払わなければならないのです。

ちなみに法定講習のテキストを宅建業協会に納入しているのも近代化センターです。

さあ,ようやく晴れて宅建主任者証を手にすることができました。

ところが,これで不動産業を始められるかというと,違うのです。

不動産業者の大部分は,各県の宅建業協会に100万円前後の入会金を支払い,保証協会に20万円の入会金を払った上で60万円の分担金を積み,不動産政治連盟に加盟して26万円前後を支払い,協同組合に10万円を支払い,しかもこれ1回きりで終わりではなく,毎年毎年,宅建業協会の年会費が約5万円,協同組合が2万4千円,政治連盟が3千円などと請求され,なかには生命保険まで強制的に割り当てる協会もあるのです。

もちろん,こういう有象無象(うぞうむぞう)に金を取られるのが嫌なら,供託金1000万円を積んで免許をもらうことは可能です。

ただしこの場合には,他の業者が客を横取りするのを防止できる契約「専任媒介契約」を結ぶために,流通機構に負担金を20万円支払い,物件1件ごとに3万円もの手数料を支払って「会員外利用」をしなければならないのです。

逆に言うと,世の中の不動産業者の大部分は,みんな何の疑問も抱かず,片っ端から長い物に巻かれてきた人たちだというわけです。

不動産業者の手数料が高すぎるという声をよく耳にします。実際,今の手数料制度は,昭和45年以来,まったく改められていないのです。

しかしこれだけドップリと権益の罠にはまり込んでしまった不動産業者から,改善案が出てくるはずがないことだけは明らかですよね。

みずから体質を変えることもできない不動産業界を救うために多額の税金を注ぎ込むわけです。納税者には,とても納得できない話です。

まもなく宅建主任の試験の受付が始まります。

その先には,これだけ多くの出費と,怒りと諦めが待ち構えているのです。

ぜひ心して受験していただきたいものだと思います。


平成10年7月30日(木)記

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